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2013年09月05日

あまちゃん震災編〜「怖くなんかないさ」

いい物語のタイプはいくつかあります。その中で僕が好むのは、遠大な大河ドラマの終局で、これまでに張り巡らせ放置してきた伏線が怒涛の勢いで回収され、まるで最初からそのために用意されていたかのように見えるタイプのものです。

僕は今年「あまちゃん」に何度も笑わされ、何度も泣かされ、何度も救われてきました。そして、今、驚かされています。この極上のコメディが、実は今この震災編というものを描くために逆算されて作られたのだと、思ってしまったからです。正解ではないかもしれませんが、僕がそう思って、そう驚いたなら、正解でなくても同じことです。

そもそも何故アイドルだったのか。

何故あまさんだったのか。

何故海女としての成長を描かず、アイドルとしての物語だったのか。

震災編を見て、僕の中で答えが出ました。

この物語は主に脚本家による「エンターテインメント賛歌」です。

エンタメって素晴らしいだろ、エンタメっていいもんだろ、エンタメしようぜと呼びかけ、自分自身を鼓舞する物語です。

あの震災の日、エンターテインメントは存亡の危機に直面しました。あの日エンタメは「いらないもの」でした。なくても困らないものとしてのエンタメと、本当に必要なものとしての食糧・水・衣服・住居・電気etc。両者の間に横たわる断絶。圧倒的な格の違いがありました。

しかし、ゆっくりと気づいたはずです。人はパンのみにて生きるにあらず。生きているだけじゃ何の意味もない。楽しくなくちゃ人生じゃない。そこにこそ生きている喜びがある。人生の艶やかなフレーバー…それこそがエンタメなのだと。香りのしないコーヒーのように、エンタメのない人生は味気ない。楽しむこと、笑うこと、喜ぶこと。そういった感情で人間を「元気」にするのがエンタメなのだと感じたはずです。ご飯を食べて元気になり、薬を飲んで元気になるのと同じように。

そんなエンタメの中にも順位があります。例えば、本。有益な知識を得られ、ガスも電気も使わない本は避難所でも愛されたことでしょう。あるいは、歌。レディー・ガガさんやシンディー・ローパーさん、坂本九さんのアーティスティックな歌声は、勇気や愛を胸に呼び起こしたはずです。そういうエンタメならいいのか。いや違う。もっといろいろなものがあってこそ。認められにくいものも含めて、エンタメじゃないですか。

そんなエンタメの中でも、かなーーーり最後のほうまで認められないのが「アイドル」です。

いい年した大人が若い子に夢中になってキャーキャーする。これは最後の最後のほうに申し訳なさそうに出てくるエンタメでしょう。実際、アイドル好きってあんまりいい目で見られませんしね。ただ、そういう存在だからこそ、「夢」中にもなれるはず。いくつかあるエンタメの中でも、もっともあの日と遠い存在だからこそアイドルは選ばれたのではないでしょうか。朝ドラのテーマ「少女の成長物語」にも合致しますしね。

そして舞台は岩手県にした。あの震災、本当に命を奪い、悲しみを生んだのは津波です。福島じゃテーマがぶれる。宮城は真っ赤に燃えていた。東京じゃ所詮他人事。岩手ならあの日のことを正面から見つめられる。中途半端に宮城が出てくるより、田舎っぽいですしね。

そして海女。この世で一番海とともに生きている少女って海女じゃないですかね。海の怖さも、海のありがたさも知っている海女さん。海を恐れ遠ざかることは簡単です。でも、それだけじゃいられない人もいる。その象徴として海女が選ばれたのではないでしょうか。「海女さんがアイドルになる」という素っ頓狂な設定も、「あの日、こんな娘がいたらなぁ」という地点からスタートすれば、それなりに理屈が通ると思うのです。

そして、アイドルだから、歌のチカラも借りられる。

きたてつの駅長・大吉さんは地震のあと、トンネルの中で停車した列車を降り、暗闇を進んで出口に向かいます。そして流された町を見るわけですが、そのときに歌っていた歌が「ゴーストバスターズ」でした。大吉さんの十八番。作品中でも何度も歌っていました。この曲、単なる80年代を代表する面白ソングとして選ばれたのかと思いきや、これもまるで逆算して作られた設定のように物語を彩ります。

あの歌は原作中でお化け退治業者のCMソングとしても使われていた歌。ざっくり訳すと「お化けで困ったときは誰を呼ぶ?ゴーストバスターズだろ!俺達はお化けなんて怖くないぜ!」と叫び続ける歌です。あの歌の一節「I ain't afraid of no ghost」。怖いけど、怖くない。怖いけど、俺達しかいない。怖いけど、俺達はゴーストバスターズなんだ。「怖くなんかないぞ。俺たちを呼んでくれ。いつだって助けにいくぞ」そういう歌です。

ゴーストバスターズがきたてつに置き換わったら?消防署に置き換わったら?医者に置き換わったら?大吉さん…いや、あの日、自分たちのすぐそばの人を守るために立ち上がった、すべての人たちのテーマソングみたいじゃないですか。怖いけど、目の前のこの人を守れるのは俺達しかいないじゃないかという決意。その瞬間を描くために、大吉さんは何度も伏線としてゴーストバスターズを歌ってきたんじゃないでしょうか。あの高台に止まった電車は実話ですよね。物語の核にすべく、駅長さんが用意されたんじゃないですかね。

歌でつづる物語が、歌に込めた伏線。

そう思って物語を見れば、「潮騒のメモリー」「地元に帰ろう」という天野アキの人生を方向付けた2曲は、まさにあの日そのものじゃないですか。あの潮騒の激しさと、今も消せない記憶。けれど、その土地を、その思い出を抱きしめずにはいられない心。帰りたくても帰れない人がまだたくさんいます。でもいつかは帰りたいでしょう。地元に帰りたいでしょう。帰ろうよ。そういう歌をアキは歌っています。

アキが食糧品のなくなったコンビニでアイドルの無力さに打ちひしがれた夜。

「今年はもぐらないよね?」と東京人の心で問いかけたいたわりという名の無神経。

「お構いねぐ」と突き放し、誰にも決められない自分たちの…この土地の人生を貫く夏ばっぱ。それは、気にしなくてよい、お前も自分の人生を歩めという逆エールだったか。

はたして、自分に何ができるのだろうか。その無力感。

でも、答えはもう出ています。

「潮騒のメモリー」「地元へ帰ろう」

もし歌に託すだけじゃわからなくても、誰より先にユイちゃんが答えを出してくれたじゃないですか。

「中止じゃない、延期だぞ」
「延期じゃないよ、中止だよ」
「もう怖くていけない」
「アキちゃんが来てよ!!」

このやりとりこそが、この作品の底にあるものだったのかなと。だから、ユイちゃんはあんなに理不尽な事件の数々で東京行きを阻まれてきたのかなと、今になって思います。

離れられない人がいる。離れられない場所がある。もしその人が、そこで傷ついていたら?疲れていたら?生きる気力を失っていたら?

エンタメは「元気」です。エンタメが売っているのは「元気」なのです。でも、本当に元気を失った人は、エンタメ屋までたどりつけません。膝を折ってうずくまっています。そのときエンタメが、遠くから心配そうな眼をして、芸を止めても意味ないですよね。自粛しても意味ないですよね。叩かれても、蹴られても、その人に駆け寄って「元気」が出るまで芸をしてあげないと。

エンタメの押し売り。

元気のお届け。

それが、震災を経たエンターテイナーの答えなんじゃないでしょうか。

「元気出してくれよーーーーーー!!」
「元気を届けに行くからさーーーーーー!!」
「イヤだって言われても行くからさーーーーーー!!」

震災編の物語から、セリフにないそんな声が聞こえた気がします。

そういう気持ちで書かれた物語だから、こんなに明るいのでしょうか。どんな悲しい事件も笑いで包み込んでしまうのでしょうか。繰り出すギャグの数々が、絶対に笑わせてやるぞという、エンタメ屋のプライドのようでさえあります。「アキちゃんが来てよ」。これってすべてのエンタメに投げられた言葉かもしれません。会いに来れない誰かに元気を届けるには、こっちから会いにいくしかないですもんね。怖くない。怖くない。怖くない。泣くのはいやだ笑っちゃおう。すすめー!

そんな決意表明かな、と。

やりますね、あまちゃん。

全然、あまくないですね。

↓では、みなさんもご一緒にゴーストバスターズ!







posted by フモフモ at 03:16 | Comment(22) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フモさん、泣かせるね…
Posted by at 2013年09月05日 03:58
泣いちゃった
Posted by ひろ at 2013年09月05日 04:30
ゴーストバスターズは最初っから伏線だったのかな?そうでもそうじゃなくても凄いですよね。
大吉さんは聖なる凡人ですね。
しかしクドカンがこんな国民的支持を受けるなんて信じられない。
東北人はギャクセンスがないって定説があるみたいですが、クドカンとフモフモさんの出現がそれを否定してくれましたね。
Posted by at 2013年09月05日 05:56
ありがとう。言葉としてのエンタメ、フモさんから
届けられるのを待っています。
元気は届けるもの、(上から目線の)与えるものじゃない。
Posted by at 2013年09月05日 06:20
Z伝説のリーダーの台詞、「会いに来てね、会いに行くよ、いつだって味方だから」というフレーズを真っ先に思い出しました。。。

絶対諦めない we are!!!
Posted by とりのすけ at 2013年09月05日 07:49
私はジオラマにやられました。
こういうことの伏線だったとは。

> 自粛しても意味ない
自粛ってのは、「自力で回復しろ」というメッセージ。
突き放しています。
できることで行動あるのみですね。
Posted by だ at 2013年09月05日 08:43
クドカンのインタビューで最初からこの震災を盛り込んで話をつくるというのは決まってたと話していたと思いますけど。。。
Posted by at 2013年09月05日 11:35
鈴鹿ひろ美が働く気力を失ってたときに、春子が東北人として「働け」って言ったのや、夏ばっぱの「お構いねぐ」ってのも、「勝手に」自粛してる人たちに向けての言葉なんだろうね。起こってしまったことと、これから起こせることはちゃんとわけて考えなきゃいかんね。
Posted by at 2013年09月05日 12:23
あまちゃん見てないのですが、泣きそうになりました。
すごいですね。
Posted by ako at 2013年09月05日 12:30
泣いた…本当にその通りだと思います
Posted by at 2013年09月05日 14:37
ゴーストバスターズ!!
(泣かせんじゃねぇよ..
Posted by poco at 2013年09月05日 17:25
昼間いっぱい泣いたのに、ここでまた泣かされちゃったよ。
Posted by ほ- at 2013年09月05日 20:43
アツいよねえ。どうせ売名行為だろうけどさ。
でも、お化け退治屋さんより、私は新しい薬が欲しい。
Posted by マスター at 2013年09月05日 21:57
ごめん、連投。そういうことか!
様々な伏線もそうだけど、作品内のアチコチにちりばめられまくってたオマージュの数々。これ、オリジナルちゃうやん、元ネタ、アレやん、っていう数多くのシーン。それでゴーストバスターズ!あえてパクリ疑惑のあったあの曲ってことか!
わがるヤヅだげわがればいいってことだな。
Posted by マスター at 2013年09月05日 22:13
泣いてしまった
表現者の心を受け止めるのも力だね
Posted by おちゃ at 2013年09月06日 01:15
 先週の予告から泣けてしまって、ここまではまってしまったドラマは初めてです。
Posted by カド at 2013年09月06日 01:38
BUMP OF CHICKENの「ラフ・メイカー」という曲を思い出しました。
今後の展開が楽しみです。
Posted by m. at 2013年09月06日 04:55
この記事を読んで
震災後に真っ先に東北に元気と物資を届けに行ったエンターテイナー
江頭2:50 エガちゃんのことを思い出した!
Posted by at 2013年09月06日 06:23
フモフモさん岩手出身だっけ
ドラマもエンタメの作り手の覚悟がひしひしと伝わってくるからこそ、これだけ人を引き付けてやまないんでしょうね

フモフモさんのコラムも、覚悟が伝わってくる時があるよ、たまにだけどw
Posted by とし at 2013年09月06日 14:20
『あまちゃん』は偽物だと思う。その最たるものが菅原さんのジオラマであり、アキのネイティヴではない方言であり、ヤクシマルとキョンキョンのいない世界であり、言わずもがなの太巻アメ女GMT…えっ?GMTって日本語入力すると「キモかー」ってなるわ、リーダーのことアツすぎてキモいとか言うな佐賀!もとい、であり、震災の本当の現実をわりとライトにスルーした描写であり、軽薄でしょーもないパクリ駄曲のゴーストバスターズであるのだと思う。そんなしょーもないフェイクを寄せ集めて、数多くのオマージュで遊びまくりながら、こんなにも面白くて感動的な作品にしやがったのが、クドカンのマジックなのだと思う。ちくしょーめが。

もし『あまちゃん2』があるのだとしたら、今度はユイちゃん主役編でお願いしたい。ナレーションがリレーしていったように主役交代もクドカンならアリだと思うし、カッケーと思う。なんてテレビ見てるだけなんだけどさ。
Posted by マスター2 at 2013年09月06日 15:07
私が生まれるズ〜ッと前のことです。
太平洋戦争に敗戦し、すべてに打ちひしがれていた日本列島。夢も希望も食べる物も無いとき。

鳥籠から解き放たれたかのように飛び出し、列島を駆け巡った「♪リンゴの歌」。

これもエンタメ、当時の復興ソングでしょう。聴いても腹も満たされない、直接の利益にならないエンタメ。
それでも、精神的なチカラになったのでしょうね。

当時の復興・発展からすれば、現在の復興に向けた行動は“他人事”です。生ぬる過ぎます!(怒)
Posted by 座敷童子 at 2013年09月12日 02:39
フモさん、岩手の方でしたね。
あの時のブログ記事、思い出しました。
Posted by オーバーヘッド at 2013年09月21日 19:14
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