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2017年07月25日

最初のパン屋。

僕はパン屋とか雑貨屋とかカフェとかをめぐるのが好きなんですが、そんなことを始めたのは比較的最近だったりします。学生時分などは生来のコミュ障と面倒臭がりがダブルで効果を発揮しており、ひきこもった家のなかでゲームばかりしているような日々でした。本当につまらないことをしたと思います。

その頃、僕が遊び場としていたのは下北沢でした。家から近いということもあったし、何となく雑誌とかでもてはやされていました。ただ、正直なところ、何が面白いのがいまだによくわかりません。人はやたらといるし、にぎわっているのはわかるのですが、成長すればするほどに別に面白くも何ともないのです。

古着には興味がないし、それ以外の店もパッとしないものばかり。基本的に物件は汚く、小さく、ゴチャゴチャしています。すごいオシャレなパン屋があるわけでもなく、キラキラした雑貨屋があるわけでもなく、こじゃれたカフェがあるわけでもない。あるにはあるけど、言うほどではない。むしろ、古臭くてジットリとした小劇場のような、戦後の闇のようなもののほうが街の本体だったのだと、今にしてみれば思います。

ただ、その頃は何も考えずに下北沢を信仰していたというか、下北沢にいることで安堵していました。自分は東京に馴染んでいるのだとか、オシャレなのだとか、遊び慣れているのだとか、決してつまらない日々を過ごしているのではないだとか。初めて床屋ではない美容院に行ったのも下北沢でした。そういう意味では僕は下北沢に救われていたのだなと思います。

そのとき、出掛けるたびに買っていたのがアンゼリカのパンでした。買うのはいつもカレーパンとみそパン。みそパンというのは、味噌が入っているらしいのですが、一度も味噌味を感じたことはありません。ちょっと甘くて香ばしい、不思議な味のパンです。それが味噌味なんでしょうが。僕はカレーパンとみそパンを2個ずつ買いまして、それで2食ぶんとしていました。あとは牛乳を飲んで。

それもまた雑誌で読んで、下北沢には有名なパン屋があって、それを食べている自分は立派なのだと思って通っていたのです。水森亜土のイラストが入った黄色い袋を持っているとき、何かブランド品でも持つような気持ちでいたのです。どうですか、すごいでしょう。着ている服はサカゼンとかTAKAQとか今思えば恥ずかしいものばかりでしたが、そのときばかりは背筋もシャンと伸びるような気持ちで。

そのお店が今月末で閉店になると。ご主人が亡くなったのだそうです。だから、辞めるのであると。もう何年も食べていないパンですが、なくなると聞くと急に寂しくもなります。一度立ち寄ったところ、そのときはもう品切れで閉店と。なので、改めて出直しまして、カレーパンとみそパンを買いました。今日は気まぐれにクリームパンもつけて。

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水森亜土のイラスト入り看板が目印。

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名物のカレーパンとみそパン終了のお知らせ。


店内は薄暗く、アヤしい飾りがいっぱいついています。ちょっとメルヘンチック。そして、最近よく行っている系統のパン屋というか「ブーランジュリー」とはだいぶ違って、ゴチャゴチャしてミチミチしています。あぁこんな店だったなと思うと同時に、今なら初見でスルーしているかもしれないなと思ったりします。

昼過ぎに訪問したところ、すでにパンはほとんどなくなっており、カレーパンとクリームパン、あとは思い出がそんなにないバゲットプリンしか出ていません。たぶん、店のほうでもいろんな種類を出す余裕がないのでしょう。どいつもこいつもカレーパンとみそパンを買いにくるのですから。人気商品に絞り込んで焼いては出し、また焼いては出し。

みんなが迷わずカレーパンをつかんでいく、その流れに乗って僕もカレーパンをつかみます。今日はたまたま揚げたてのタイミングだったので、トングでつかんだときの手応えは思い出以上にサクッとしています。久し振りに黄色の袋を持ちました。

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公園のベンチ的なところで食べる。


いつも家に帰ってから食べていたので、揚げたてを食べるのは初めて。うむ、確かに美味い。ただ、昔はカレーがもっとドロッとしていたような気もします。記憶のなかにある、パテのようにねっとりとしたカレー感とはちょっと違う。テレビでよくある、昔の定食屋を訪ねたときの「これこれ、この味だよ!変わってないなー」という気持ちにはなれませんでした。もしかして、いつも食べていたのと違う種類のカレーパンだったかも。自分が食べていたカレーパンはどれなんだか、もはやよくわからないですが…。

しばし休憩ののち、再びお店に向かいます。さっきはなかったみそパンをどうしても手に入れたい。きっとそろそろ焼き上がるだろう。そう思って再訪すると、今度は棚にみそパンだけが並んでいます。丸くてボテッとしたフォルム、それを雑然と棚に突っ込むさまは、野暮ったさ満点です。いつものように2つつかんで、帰ります。

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これが最後の訪問だろうから記念に。

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カレーパンでお腹いっぱいだったので、みそパンは家で食べました。


食べたとき、ようやく僕は「これこれ、この味だよ!」と思いながら、同時に「そんなに美味くねぇな…」と感じていました。腕が落ちたとかそんなことは全然なく、まさにこのパンでこの味でこの美味さなのですが、改めて食べるとものすごく美味いってほどでもない。生地もブリオッシュにしてはボテッとしているし、みそ味もすごく美味いってわけでもない。味が単調なのにサイズは大きいので、途中で飽きるようなところもあります。サイズを小さくするか、もう少し変化をつけたほうがいいんじゃないか的な改善案も浮かびます。

そして思いました。それぐらいの感じだったから、馴染めたのかなと。一足飛びに駆け上がるのではなく、一段ずつゆっくり上がっていく、その一段目がアンゼリカだったんだなと。うますぎないくらいが、僕にはちょうどよかったのだと。僕はアンゼリカでパン屋をめぐる楽しさを教えてもらい、その後の街歩きにつながっていきました。探せば探すほどに素晴らしいものがたくさんあり、どんどん気持ちは広がっていきました。

そして下北沢自体も、そうだったのだろうと思います。雑誌に載っているオシャレな街というイメージと、それとは少し違う古くて安くて安心な実態とが、一段ずつ先へと進ませてくれたのだと。あまりにキラキラしすぎていたら、その時点で尻込みしてしまうけれど、下北沢くらいだと心安い。地方大会から順番に勝ち上がっていくシステムみたいに、僕に街への第一歩を踏み出させてくれたのだなぁと。

僕が今、1個500円のクロワッサンとかに臆せずトライしていく勇気を持てるようになったのは、1個170円で胸を張らせてくれたみそパンがあったから。馴染みのパン屋、好きなパン屋はいくつかありますが、パン屋にお礼を言うのはここが最初で最後かなと思います。みそパン、カレーパン、どうもありがとう。僕にとっては母校とか恩師とか、そんな存在でした。食べ納めてできてよかったです。




posted by フモフモ at 00:22 | Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
1つ500円のクロワッサンって、ポールボキューズがそれくらいだったかしら!?

私も好きですよ、高いけどたまにはいいですよね。(*^^*)

プレミアムは時々元気をなくするから心配します、、!

Posted by マル at 2017年07月25日 02:16
フモさんのツイート見て閉店を知り、昨日行って来ました。最初にあの店に行ったのは20数年前。あの頃、みそパンはそんなに美味しいってイメージがなく、お店に行くと違うパンを買ってたんですが、今回食べたら、あの素朴な味がおいしかった!フモさんと逆でした。自分が歳をとったからなのかな。
Posted by みそパン at 2017年07月28日 18:43
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